【理科・小ネタ】ブルーギルの排除に向けたゲノム編集の応用【生物・遺伝子】
こんにちは!理科教師のなおです!
今日は先週NHKが報道した琵琶湖のブルーギル根絶計画についてお話しをしたいと思います。
日本の多くの自然で問題となっている外来種問題。
その1つとして挙げられるのがブルーギルの問題です。
ブルーギルは気性が荒く、多くの在来種に対して食害による影響を与えてしまいます。
また、親魚が卵や稚魚を外敵から守るため非常に繁殖力がつよく、捕獲による駆除が行われているが、根絶は難しいと考えられてきました。
そうしたブルーギルの根絶に向けて、ゲノム編集が利用されてようとしています。
【ゲノム編集とは】
生物のゲノム(遺伝情報)をピンポイントで編集することのできる技術です。
ガイドと呼ばれる特定のDNA配列に結合する物質を利用することで、狙ったDNAだけを改変することができます。
これまで利用されてきた放射線による突然変異の促進や遺伝子組み換えでは遺伝子のどの部分に変異が入るかはほとんどランダムで、狙った遺伝子を持った生物を作り出すためには何回もの試行を繰り返すことが必要でした。それに対してゲノム編集はそうした部分まで人為的に設計することができるので、非常に容易に遺伝子を書き換えることができます。
現在のゲノム編集では「CRISPR-Cas9」と呼ばれる技術が主流である。この技術は操作自体も簡単でこれを用いる技術者は以下のように述べている。
作業は驚くほど簡単だった。透明なメダカの卵に極めて細いガラスでできた針を刺す。針を通してクリスパーを注入する。それだけだ。ものの数分で終わってしまった。
『ゲノム編集の衝撃』 P.38より
【ブルーギル根絶の原理】
このゲノム編集を用いてどうやってブルーギルの根絶を行うのか。
実際に行うのはゲノム編集を行った雄のブルーギルを琵琶湖に放流するといった作業だけです。このブルーギルの雄は卵をつくる際に必要ないくつかの遺伝子がはたらかなくなるよう遺伝子の改変が行われています。つまり、「卵がつくれない遺伝子」をもっているのです。
ブルーギルをはじめ多くの魚の繁殖は
雌が卵を産む→そこに雄が精子をかける
という流れで行われる。このゲノム編集を行われた雄が卵に精子をかけると雄の遺伝子が卵に伝わっていくため、ふ化した子の一部は「卵がつくれない遺伝子」を持っている。そのため、そこからふ化した雌は卵がつくれなくなり、雄は次の世代で卵に精子をかけることで「卵をつくれない遺伝子」をもった子孫を増やしていく。
これを繰り返すことで徐々に卵をつくれないブルーギルが増えていき、繁殖力が下がっていくため、ブルーギルが減っていくだろうという原理である。
【以前の成功例】
こうした卵を作れない変異体を利用して害虫等を駆除しようという試みはすでに成功例がいくつか報告されている。放射線を当てることで卵をつくれなくなった個体を放つことで20年かけて根絶することに成功した「ウリミバエ」をはじめ、「ミカンコバエ」、「イモゾウムシ」などでも一定の成果が報告されている。
しかしこれらはサイクルが早く、また変異等が行いやすい虫だったから行うことができたが、魚などの動物での応用は難しいと考えられてきた。
しかしながら、ゲノム編集というすべての生物に対して容易に、そして自分の思い通りに遺伝子を編集することのできる技術が発達することで今回のブルーギルへの応用が実現可能となった。
【感想】
人間が人為的に遺伝子を操作した生物を自然に放出すること、人為的に生態系をコントロールしていくことに対して嫌悪感を示す人、倫理的に問題があると感じる方もいるかもしれない。しかしながら、私はこうした技術が発達していくことで今まで解決が難しいと考えられていた問題が解決していく様には興奮を覚えてしまう。